溶連菌感染症は、適切な治療を受ければ、通常は数日から一週間程度で回復に向かう病気です。しかし、その治療において最も重要なことは、処方された抗生物質を、症状が良くなったからといって自己判断で中断せず、医師の指示通り、最後まで必ず飲みきることです。なぜなら、溶連菌感染症の本当に怖いところは、急性期の喉の痛みやかゆみといった症状そのものよりも、治療が不完全であった場合に引き起こされる、深刻な「合併症」にあるからです。溶連菌感染症の合併症は、大きく分けて二つあります。一つは、「化膿性合併症」です。これは、喉にいる溶連菌が、周囲の組織に広がって、新たな細菌感染症を引き起こすものです。例えば、炎症が耳に及べば「中耳炎」、鼻に及べば「副鼻腔炎(蓄膿症)」、首のリンパ節に及べば「頸部リンパ節炎」となります。また、扁桃腺の周囲に膿が溜まってしまう「扁桃周囲膿瘍」は、激しい痛みと開口障害を伴う、緊急性の高い状態です。これらは、抗生物質による治療が不十分な場合に起こりやすくなります。そして、より深刻で、最も警戒しなければならないのが、「非化膿性合併症」です。これは、溶連菌に対する体の免疫反応が、誤って自分自身の体の組織を攻撃してしまう、自己免疫疾患のような病態です。代表的なものに、「リウマチ熱」と「急性糸球体腎炎」があります。リウマチ熱は、発症から2~3週間後に、発熱や関節の痛み、そして最も重篤な症状として、心臓の弁に炎症が起こる「心炎」を引き起こします。この心炎は、将来的に心臓弁膜症という後遺症を残す可能性があり、非常に危険です。一方、急性糸球体腎炎は、発症から3~4週間後に、血尿やタンパク尿、体のむくみ(浮腫)、高血圧といった、腎臓の機能低下のサインが現れる病気です。ほとんどの場合は自然に回復しますが、一部では腎不全が進行することもあります。これらの恐ろしい合併症は、現在では、抗生物質による治療が普及したことで、その発生頻度は激減しました。しかし、それは裏を返せば、抗生物質をきちんと最後まで飲みきることが、いかに重要であるかを示しています。目先の症状が和らいだからと油断せず、体内に潜む溶連菌を完全に根絶やしにすること。それこそが、将来にわたる子どもの健康を守るための、親の最も大切な責任なのです。
かゆみと合併症、溶連菌の本当に怖いところ