むちうちの症状は、首の痛みだけではありません。多くの患者さんを悩ませる、非常に厄介な症状の一つに、「頭痛」や「めまい」があります。事故の後から、後頭部が締め付けられるような頭痛が続く、立ち上がるとクラっとする、周りがぐるぐる回るような感じがする。これらの症状は、整形外科でレントゲンを撮っても異常が見つからず、周りの人にもつらさを理解されにくいため、患者さんを精神的にも追い詰めてしまいます。この、むちうちに起因する頭痛やめまいの背景には、「自律神経」の乱れが深く関わっていると考えられています。自律神経は、血圧や心拍、呼吸、体温などを、私たちの意思とは関係なくコントロールしている、生命維持に不可欠な神経です。この自律神経の中枢は、脳幹や視床下部といった、脳の深い部分にありますが、首の骨(頸椎)の中やその周りにも、重要な神経線維や神経節が通っています。むちうちの強い衝撃によって、首に過度な力が加わると、これらの自律神経の組織が、直接的あるいは間接的にダメージを受けたり、過剰な刺激を受けたりします。すると、自律神経のバランスが崩れ、正常に機能しなくなってしまうのです。その結果、脳への血流が不安定になったり、平衡感覚を司る内耳への情報伝達がうまくいかなくなったりして、頭痛やめまい、ふらつきといった症状が引き起こされると考えられています。この、自律神経症状を主とするむちうちは、「バレ・リュー症候群」とも呼ばれます。症状は、頭痛やめまいだけでなく、耳鳴り、吐き気、目の疲れ、動悸、全身の倦怠感など、非常に多岐にわたります。そして、天候や気圧の変化、精神的なストレスによって、症状が良くなったり悪くなったりと、波があるのも大きな特徴です。このタイプの症状の治療は、単なる痛み止めだけでは難しく、自律神経のバランスを整えるための薬物療法や、血行を改善するための温熱療法、そして心身をリラックスさせるためのリハビリテーションなどが、総合的に行われます。首の痛みだけでなく、原因不明の頭痛やめまいに悩まされている場合は、我慢せずに、必ず医師にその症状を伝え、適切な診断と治療を受けることが大切です。

子供の水いぼ、その原因は?ウイルスの正体と感染の仕組み

ある日、子供の体に、光沢のある、小さなぷつっとした出来物を見つける。最初は一つだったのに、いつの間にか数が増えて、周りにも広がっている。これが、多くの子供たちが経験する「水いぼ」です。その見た目から、水ぶくれの一種かと思われがちですが、実はその正体は、皮膚の「ウイルス感染症」です。水いぼの正式な病名は、「伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)」と言います。その原因となるのは、「伝染性軟属腫ウイルス」という、ポックスウイルス科に属するウイルスです。このウイルスが、皮膚のバリア機能がまだ未熟な子供の皮膚に感染し、表皮の細胞内で増殖することで、特徴的ないぼを形成するのです。水いぼの見た目には、いくつかの特徴があります。大きさは、直径1~5ミリ程度で、色は肌色か、少しピンク色がかった色をしています。表面はツルツルとして滑らかで、光沢があり、ドーム状に盛り上がっています。そして、よく見ると、その中心が、おへそのように少し凹んでいるのが、最大の特徴です。この中心の凹みには、ウイルス粒子を大量に含んだ、白い粥状の塊(軟属腫小体)が詰まっています。では、このウイルスは、どのようにして子供の皮膚に感染するのでしょうか。主な感染経路は、ウイルスが付着した物や、人を介した「接触感染」です。例えば、水いぼがある子供の皮膚と、別の子供の皮膚が、直接触れ合うことで感染します。また、水いぼを掻き壊した手で、おもちゃやタオル、衣類などに触れると、そこにウイルスが付着します。それを、別の子供が触り、さらにその手で自分の皮膚を掻いたり、小さな傷に触れたりすることで、ウイルスが侵入し、感染が成立します。特に、アトピー性皮膚炎などで皮膚が乾燥し、バリア機能が低下している子供は、ウイルスの侵入を許しやすく、感染が広がりやすい傾向にあります。水いぼは、良性のウイルス性腫瘍であり、痛みやかゆみはほとんどなく、放置してもいずれは免疫ができて自然に治癒します。しかし、その過程で、自家接種によってどんどん増えたり、周りの子供にうつしてしまったりする可能性があるため、その原因と感染経路を正しく理解しておくことが大切です。

なぜうつる?子供の水いぼの主な感染経路と感染しやすい場所

子供の体にできた水いぼ(伝染性軟属腫)が、一つ、また一つと増えていく様子を見ると、保護者の方は「一体どこで、どうやってうつってきたのだろう?」と、疑問に思うことでしょう。水いぼの原因である伝染性軟属腫ウイルスは、感染力が比較的強く、子供たちの生活の中の、様々な場面に感染の機会が潜んでいます。その主な感染経路と、特に感染が起こりやすい場所を知っておくことは、予防と対策の第一歩となります。水いぼの感染経路は、ほぼ100%「接触感染」です。ウイルスが付着したものや、人に触れることで感染が広がります。具体的な経路は、二つに大別できます。一つは、「直接接触」です。水いぼがある子供の皮膚と、他の子供の皮膚が、肌と肌で直接触れ合うことで、ウイルスが移動し、感染します。子供同士がじゃれ合って遊んだり、兄弟でくっついて寝たりする中で、感染が起こりやすくなります。もう一つが、「間接接触」です。水いぼを掻き壊した手には、ウイルスがたくさん付着しています。その手で触れた、おもちゃ、タオル、衣類、寝具、ドアノブなど、様々な物品が、ウイルスを運ぶ「媒介物」となります。別の子供が、これらの物品に触れ、さらにその手で、自分の皮膚の小さな傷や、乾燥してバリア機能が低下した部分に触れることで、ウイルスが体内に侵入し、感染が成立するのです。では、このような感染が起こりやすい場所はどこでしょうか。最も代表的なのが、「プール」や「公衆浴場」です。プールの水そのもので感染するリスクは低いと考えられていますが、問題は、ビート板や浮き輪、プールサイドの椅子といった、湿っていて、多くの子供たちが素肌で共有する物品です。また、体を拭くタオルの貸し借りも、非常に危険な感染経路となります。同様に、保育園や幼稚園といった「集団生活の場」も、おもちゃの共有や、お昼寝の時間などを通じて、感染が広がりやすい環境です。特に、皮膚のバリア機能が低下している、アトピー性皮膚炎や乾燥肌の子供は、同じ環境にいても、そうでない子供に比べて、ウイルスに感染しやすい傾向があります。これらの感染経路と場所を理解し、手洗いの徹底や、タオルの共用を避けるといった、基本的な感染対策を日頃から心がけることが、水いぼの感染予防に繋がります。

アトピー性皮膚炎の子供は要注意。水いぼができやすい理由

水いぼ(伝染性軟属腫)は、どんな子供にもできる可能性がありますが、中でも特に、アトピー性皮膚炎を持つお子さんは、水いぼに感染しやすく、そして、一度感染すると、数が増えやすく、広範囲に広がりやすいという傾向があります。なぜ、アトピー性皮膚炎の子供は、水いぼのリスクが高いのでしょうか。その背景には、アトピー性皮膚炎特有の、皮膚の状態が深く関わっています。その最大の理由が、「皮膚のバリア機能の低下」です。健康な皮膚は、表面が皮脂膜で覆われ、角質層がレンガのように隙間なく並ぶことで、外部からの異物や刺激、そしてウイルスや細菌の侵入を防ぐ、強固な「バリア」として機能しています。しかし、アトピー性皮膚炎の子供の皮膚は、遺伝的な要因や、体質によって、このバリア機能が元々弱い状態にあります。皮膚は乾燥してカサカサし、角質層には目に見えないほどの小さな隙間がたくさんできています。この状態は、ウイルスにとっては、まさに「門が開いている」ようなもので、伝染性軟属腫ウイルスが、いとも簡単に皮膚の内部に侵入することを許してしまうのです。さらに、アトピー性皮膚炎のもう一つの大きな特徴が、「かゆみ」です。強いかゆみのために、子供は無意識のうちに皮膚を掻きむしってしまいます。この「掻破(そうは)」という行為が、水いぼの感染と拡大に、二重の悪影響を及ぼします。まず、掻くことによって、皮膚の表面に無数の細かい傷ができます。この傷は、ウイルスにとって格好の侵入口となります。そして、もし既に水いぼが一つでもできていた場合、そのいぼを掻き壊してしまうと、いぼの中心に詰まっていた、ウイルスを大量に含んだ白い塊(軟属腫小体)が、周囲の皮膚に撒き散らされてしまいます。そして、そのウイルスが、掻き傷から次々と新たな場所に侵入し、自分の体でウイルスを広げてしまう「自家接種」という現象を引き起こすのです。これが、アトピー性皮膚炎の子供で、水いぼがどんどん増えてしまうメカニズムです。したがって、アトピー性皮膚炎のお子さんの水いぼ対策としては、水いぼそのものの治療と同時に、日頃からのスキンケアで皮膚のバリア機能を正常に保ち、かゆみをコントロールして、掻き壊しを防ぐことが、何よりも重要になるのです。