擦り傷ができた時、多くの人が最も気にするのは、「この傷、跡に残らないだろうか」ということでしょう。特に、顔や手足といった、人目につきやすい部分の傷であれば、その心配はなおさらです。傷跡を最小限に抑え、できるだけ綺麗に治すためには、怪我をした直後からの「初期対応」が、何よりも重要になります。昔ながらの「傷は乾かして、かさぶたを作る」という考え方は、今や過去のものです。現代の創傷治療の主流は、傷を適度な湿潤環境に保つことで、皮膚の再生を促す「湿潤療法(モイストヒーリング)」です。まず、擦り傷ができたら、最初に行うべきことは「洗浄」です。傷口には、目に見えない砂や土、雑菌などが付着しています。これらを放置すると、感染の原因になったり、皮膚の中に異物が残って「外傷性刺青」としてシミのようになったりします。水道水を流しながら、傷口を優しく、しかし念入りに洗い流してください。石鹸を使っても構いませんが、よく泡立てて、泡で汚れを浮かすように洗い、すすぎは十分に行います。しみるからといって、消毒液(マキロンやイソジンなど)を使うのは、実はあまり推奨されません。消毒液は、細菌だけでなく、皮膚の再生に必要な細胞まで傷つけてしまい、かえって治りを遅らせる可能性があるからです。洗浄後は、清潔なガーゼやタオルで、傷の周りの水分を優しく押さえるように拭き取ります。そして、ここからが湿潤療法の本番です。傷口を乾燥させないように、専用の被覆材(ドレッシング材)で覆います。薬局で手に入るハイドロコロイド素材の絆創膏などがこれにあたります。これは、傷から出てくる滲出液(しんしゅつえき)に含まれる、皮膚の成長因子を閉じ込めて、潤った環境を保つことで、痛みを和らげ、細胞の再生をスムーズに促す働きをします。被覆材は、頻繁に交換する必要はありません。滲出液で白く膨れ上がったり、端から漏れ出してきたりしたら、交換のサインです。交換する際も、再度、水道水で優しく洗浄することを忘れないでください。この正しい初期対応が、未来のあなたの肌を、目立つ傷跡から守るための、最も効果的な方法なのです。