お腹のどのあたりが痛むか、という「痛みの場所」は、その原因となっている臓器や病気を推測する上で、非常に重要な手がかりとなります。自分のお腹を時計の文字盤に見立てて、どの部分が痛むのかを意識することで、より的確に医師に症状を伝えることができます。まず、「お腹の右上」、つまり右の肋骨の下あたりが痛む場合。ここには、肝臓や胆嚢があります。特に、脂っこい食事をした後に、この部分に激しい痛みが生じる場合は、「胆石症」や「胆嚢炎」の可能性があります。肝臓そのものは痛みの神経が少ないですが、急性肝炎などで肝臓が大きく腫れると、被膜が引っ張られて痛みを感じることがあります。次に、「みぞおち」の痛み。胃や十二指腸、膵臓などが位置する場所です。キリキリとした痛みであれば、「急性胃炎」や「胃潰瘍」「十二指腸潰瘍」が疑われます。また、背中にも突き抜けるような激しい痛みを伴う場合は、「急性膵炎」の可能性も考えられ、これは緊急性の高い状態です。心筋梗塞の痛みが、みぞおちの痛みとして感じられることもあるため、胸の圧迫感を伴う場合は特に注意が必要です。続いて、「お腹の左上」の痛み。ここには、胃の一部や脾臓、膵臓の尾部があります。胃炎や膵炎のほか、稀ですが脾臓の梗塞などでも痛みが出ることがあります。そして、「おへその周り」の痛み。小腸の病気が考えられます。ウイルスや細菌による「感染性腸炎」では、おへそ周りの差し込むような痛みが特徴的です。また、「虫垂炎(盲腸)」も、初期にはみぞおちやおへそ周りの痛みとして感じられ、時間が経つにつれて右下腹部へ移動していくという、特徴的な経過を辿ります。「お腹の右下」の痛みは、前述の通り「虫垂炎」を最も強く疑うべき場所です。その他、大腸の憩室に炎症が起こる「大腸憩室炎」や、女性の場合は「卵巣嚢腫の茎捻転」や「異所性妊娠」の可能性もあります。「お腹の左下」の痛みは、「大腸憩室炎」や「虚血性大腸炎」、便秘による痛みなどが考えられます。最後に、「下腹部全体」の痛み。膀胱炎や、女性の場合は子宮内膜症、骨盤腹膜炎などが原因となり得ます。このように、痛む場所は診断の大きなヒントになりますが、あくまで目安です。自己判断せず、必ず専門医の診察を受けてください。
痛む場所でわかる腹痛の原因と病気