私の初めての妊娠は、喜びと同時に、想像を絶する「つわり」との戦いの始まりでもありました。食べ物の匂いを嗅いだだけで吐き気がこみ上げ、一日中、船酔いのような状態が続く。食べられるものは、冷たいそうめんか、クラッカーくらい。そんな日々が続いていた妊娠8週目の頃、追い打ちをかけるように、新たな敵が現れました。口内炎です。最初は、舌の先に小さな白い点ができただけでした。しかし、それは瞬く間に数を増やし、頬の内側や歯茎にまで、いくつもの口内炎が広がっていったのです。一つでも痛いのに、それが複数となると、もはや地獄でした。ただでさえ食べられるものが限られているのに、口に入れるもの全てが、傷口に塩を塗り込むような激痛を伴います。醤油やソースの味はもちろん、お米の粒が当たるだけで、涙が出るほどしみました。水分を摂るのすら億劫になり、脱水気味になる悪循環。夫が心配して、栄養をつけさせようと作ってくれた温かいスープも、その湯気だけで吐き気を感じ、一口も飲むことができませんでした。つわりの気持ち悪さと、口内炎の痛み。このダブルパンチに、私の心は完全に折れてしまいました。先の見えない不調に、「どうして私だけこんなに辛い思いをしなければならないの」と、トイレで吐きながら、一人で泣いた夜もありました。そんな私を見かねて、夫が薬局で、妊婦でも使えるというビタミン剤と、刺激の少ないマウスウォッシュを買ってきてくれました。そして、食事も、痛くてもなんとか食べられる、味のないゼリーや、冷たい豆腐、ヨーグルトなどを、色々と試してくれました。すぐに劇的な改善があったわけではありません。しかし、ビタミン剤を飲み始め、口の中を清潔に保つことを心がけ、そして何より、夫の支えがあったことで、私は少しずつ前を向くことができました。つわりのピークが過ぎる妊娠14週頃には、あれほど私を苦しめた口内炎も、いつの間にか数を減らし、痛みも和らいでいきました。あの経験は、妊娠というものが、決して幸せなだけの時間ではないという現実と、それを乗り越えるためには、周囲の理解とサポートが不可欠なのだということを、私に教えてくれました。