腰や首の椎間板ヘルニアの治療において、中心的な役割を担うのは「整形外科」と「脳神経外科」です。どちらもヘルニアの手術を手がける診療科ですが、その成り立ちや得意とする領域、そして治療に対するアプローチには、いくつかの違いがあります。どちらの科を選ぶべきかを知るために、それぞれの特徴を理解しておきましょう。まず、「整形外科」は、骨、関節、筋肉、靭帯、末梢神経といった「運動器」全般を扱う、非常に幅広い領域をカバーする診療科です。椎間板ヘルニアも、背骨という運動器の構造的な問題によって引き起こされるため、その診断と治療は、整形外科の重要な柱の一つです。整形外科の治療アプローチは、まず「保存療法」を基本とすることが多いのが特徴です。薬物療法(痛み止め、筋弛緩薬など)、理学療法(リハビリテーション)、装具療法(コルセットなど)、そして神経ブロック注射といった、手術以外の方法を駆使して、症状の改善を目指します。そして、これらの保存療法で効果が見られない場合や、麻痺の進行などが見られる場合に、最終的な選択肢として「手術」を検討します。整形外科の中には、さらに専門分化した「脊椎外科」という分野もあり、より高度で専門的な治療を提供しています。一方、「脳神経外科」は、その名の通り、脳と脊髄という「中枢神経」を主に扱う診療科です。ヘルニアによって圧迫される神経そのものに着目し、その機能をいかに守り、回復させるか、という視点からのアプローチを得意とします。そのため、脳神経外科では、顕微鏡を用いた、より繊細で精密な手術手技(マイクロサージェリー)が発達してきました。治療方針としては、しびれや麻痺といった神経症状が強い場合や、画像診断で明らかな神経の圧迫が見られる場合に、比較的早期から手術を提案することも少なくありません。特に、脊髄そのものが圧迫されている頸椎のヘルニアや、脊柱管狭窄症、あるいは脊髄腫瘍といった、より重篤な病気との鑑別診断においては、脳神経外科の専門性が非常に重要となります。結論として、どちらの科が優れているというわけではありません。一般的な腰痛や軽度のしびれであれば、まずは保存療法を基本とする整形外科へ。麻痺が強い、あるいは手術を積極的に考えているのであれば、脳神経外科に相談してみる、というのも一つの考え方です。