暑い夏の日や、スポーツの後、喉の渇きを潤すために、甘い清涼飲料水やスポーツドリンクをゴクゴクと飲み干す。多くの人が、何気なく行っているこの習慣ですが、その裏には、急性糖尿病とも言える、恐ろしい状態「ペットボトル症候群」の危険が潜んでいます。ペットボトル症候群とは、糖分を大量に含む清涼飲料水を、水やお茶の代わりに日常的に飲み続けることで、急激な高血糖状態に陥り、糖尿病の急性合併症である「ケトアシドーシス」などを引き起こす病態の俗称です。特に、これまで糖尿病と診断されたことのない、若い世代に多く見られるのが特徴です。そのメカニズムは、まさに負のスパイラルそのものです。まず、糖分の多い飲料を飲むと、急激に血糖値が上昇します。すると、体は喉の渇きを覚え、それを潤すために、さらに甘い飲料を飲んでしまう。この繰り返しにより、血糖値は異常なレベルにまで跳ね上がり、インスリンの分泌が追いつかなくなったり、インスリンの働きが極端に悪くなったりします。血糖値が著しく高くなると、尿中に大量の糖が排出されるようになり(尿糖)、水分も一緒に失われるため、体は深刻な脱水状態に陥ります。そして、細胞はエネルギー源であるブドウ糖を利用できなくなり、代わりに脂肪を分解し始めます。この脂肪の分解過程で、「ケトン体」という酸性の物質が血液中に大量に蓄積し、血液が酸性に傾いてしまう。これが「ケトアシドーシス」です。ケトアシドーシスの症状は、極度の口渇、多飲、多尿に加え、全身の強い倦怠感、吐き気や嘔吐、腹痛などが現れます。さらに進行すると、意識が朦朧としたり、呼吸が荒くなったりし、最終的には昏睡状態に陥り、命に関わることもあります。恐ろしいのは、この状態が、数日から数週間という短期間で起こりうることです。市販の500ミリリットルのペットボトル飲料には、角砂糖に換算して10個以上の糖分が含まれているものも少なくありません。私たちは、知らず知らずのうちに、大量の「液体砂糖」を摂取しているのです。喉が渇いた時の水分補給の基本は、あくまでも水か無糖のお茶です。甘い飲料は、あくまで嗜好品として、時々楽しむ程度に留める。この当たり前の習慣こそが、ペットボトル症候群という現代病から身を守るための、最も重要な防衛策なのです。