糖尿病という病名を聞くと、多くの人が「甘いものの食べ過ぎが原因」というイメージを真っ先に思い浮かべるのではないでしょうか。ケーキやチョコレート、清涼飲料水といった甘い食品を日常的に摂取していると、いつか糖尿病になってしまうのではないか。この考えは、一般的に広く浸透していますが、医学的には必ずしも正確とは言えません。甘いものの過剰摂取が、糖尿病発症の「直接的な原因」になるわけではないのです。この点を理解するためには、糖尿病がどのような病気であるかを知る必要があります。糖尿病は、血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)を正常に保つ働きを持つ「インスリン」というホルモンの作用が不足したり、十分に効かなくなったりすることで、血糖値が高い状態が慢性的に続く病気です。このインスリンの作用不足が起こる原因によって、主に「1型糖尿病」と「2型糖尿病」に分けられます。1型糖尿病は、自己免疫疾患などによって、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が破壊されてしまうことで発症します。これは、生活習慣とは関係なく、ある日突然発症するものであり、甘いものの摂取とは全く関連がありません。一方、日本の糖尿病患者の9割以上を占めるのが「2型糖尿病」です。こちらは、遺伝的な要因(糖尿病になりやすい体質)を背景に、食べ過ぎや運動不足、肥満、ストレスといった、様々な生活習慣の乱れが引き金となって発症します。では、甘いものはどのように関わってくるのでしょうか。甘いものを食べ過ぎると、それは「食べ過ぎ」によるカロリーオーバーに繋がり、結果として「肥満」を招きます。肥満、特に内臓脂肪が増えると、インスリンの効き目が悪くなる「インスリン抵抗性」という状態が引き起こされます。つまり、甘いものの過剰摂取は、糖尿病の直接の原因ではなく、肥満を介して、2型糖尿病を発症させる「間接的なリスク因子」の一つとなるのです。甘いものを全く食べない人でも、他の食事でカロリーを摂りすぎて肥満になれば、糖尿病のリスクは高まります。逆に、甘いものを適度に楽しんでいても、全体的なカロリーバランスが取れ、適正体重を維持していれば、それだけで糖尿病になるわけではありません。「甘いもの=悪」と短絡的に考えるのではなく、その背景にある「カロリーオーバーと肥満」こそが、真の課題であると理解することが重要です。
甘いものの食べ過ぎは本当に糖尿病の原因か