糖尿病の予防や改善において、食事療法と並ぶ車の両輪として、常にその重要性が強調されるのが「運動療法」です。適度な運動を習慣化することは、単に体重を減らすだけでなく、糖尿病の根本的な原因に直接働きかける、非常に効果的な手段なのです。では、なぜ運動が糖尿病予防にそれほどまでに不可欠なのでしょうか。その理由は、大きく分けて三つあります。第一の理由は、「インスリンの働きを改善する」効果です。運動を行うと、筋肉細胞はエネルギー源として血液中のブドウ糖を消費します。この時、インスリンの助けを借りなくても、筋肉が直接ブドウ糖を取り込む経路が活発になります。さらに、運動を継続することで、筋肉細胞のインスリンに対する感受性が高まり、少ないインスリンでも効率よく血糖を下げることができるようになります。つまり、インスリンの効き目が悪くなる「インスリン抵抗性」を、根本から改善することができるのです。これは、薬に匹敵するほどの強力な効果と言えます。第二の理由は、「血糖値を直接下げる」効果です。食後に血糖値が最も高くなるタイミング(食後30分から1時間後)で、ウォーキングなどの軽い運動を行うと、食事で摂取した糖が、すぐに筋肉でエネルギーとして使われるため、食後の血糖値の急上昇(血糖値スパイク)を効果的に抑えることができます。これは、即効性のある血糖コントロール法として非常に有効です。第三の理由は、もちろん「肥満の解消」に繋がることです。運動によって消費カロリーを増やし、筋肉量を維持・増加させることで、体脂肪、特にインスリン抵抗性の元凶である内臓脂肪を減らすことができます。筋肉は、体の中で最も多くのエネルギーを消費する組織です。筋肉量が増えれば、基礎代謝が上がり、太りにくく、痩せやすい体質へと変わっていきます。推奨される運動は、ウォーキングやジョギング、水泳といった、全身の筋肉をリズミカルに使う「有酸素運動」と、スクワットや腕立て伏せなどの「レジスタンス運動(筋トレ)」を組み合わせることです。無理なく、そして何よりも楽しみながら続けられること。それが、運動を最大の味方にするための秘訣です。
運動が糖尿病予防に不可欠な理由