椎間板ヘルニアと診断された時、多くの人が「すぐに手術が必要になるのではないか」と不安に思うかもしれません。しかし、実際には、ヘルニアの治療の第一選択は、手術以外の方法で症状の改善を目指す「保存療法」です。麻痺の進行など、緊急性の高い場合を除き、ほとんどのケースで、まずこの保存療法から治療がスタートします。保存療法は、一つの方法だけではなく、いくつかの治療法を組み合わせて、多角的にアプローチするのが一般的です。その中心となるのが、「薬物療法」です。痛みや炎症を抑えるための「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」や、筋肉の緊張を和らげる「筋弛緩薬」、神経のダメージを修復する助けとなる「ビタミンB12」などが処方されます。しびれや神経の痛みに対しては、神経の過剰な興奮を抑える特殊な薬が用いられることもあります。次に、「理学療法(リハビリテーション)」も、重要な役割を担います。痛みが強い急性期には、温熱療法や電気治療、牽引療法などで、痛みを和らげ、血行を改善します。そして、痛みが少し落ち着いてきたら、理学療法士の指導のもとで、ストレッチや筋力トレーニングを開始します。体幹の筋肉(特に腹筋や背筋)を鍛えることで、背骨を支える天然のコルセットを作り、椎間板への負担を軽減し、再発を防ぐことを目指します。また、「装具療法」として、腰椎コルセットや頸椎カラーを装着することもあります。これらは、患部を固定して安静を保ち、痛みを和らげる効果がありますが、長期間使用しすぎると筋力低下を招くため、医師の指示に従って適切に使用することが大切です。そして、薬物療法や理学療法でもコントロールできないような、強い痛みに対して行われるのが、「神経ブロック注射」です。これは、痛みの原因となっている神経の周りや、神経の通り道に、局所麻酔薬やステロイド薬を注射する方法です。痛みの信号を直接ブロックするため、劇的な効果が得られることも少なくありません。これらの保存療法を、数ヶ月間、根気よく続けることで、多くのヘルニアは改善に向かいます。飛び出したヘルニアが、自然に小さくなったり、吸収されたりすることも、決して珍しくはないのです。