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糖尿病になりやすい人となりにくい人の違い
同じように甘いものを食べていても、あるいは同じような生活を送っていても、糖尿病を発症する人と、そうでない人がいます。この違いは、一体どこから生まれるのでしょうか。糖尿病、特に日本の患者の大多数を占める2型糖尿病の発症には、「遺伝的要因」と「環境的要因」という二つの側面が、複雑に絡み合っています。まず、無視できないのが「遺伝的要因」、つまり「糖尿病になりやすい体質」です。これは、親から子へと受け継がれる遺伝子によって、ある程度決まっています。具体的には、インスリンを分泌する能力がもともと弱かったり、インスリンの効きが悪くなりやすい(インスリン抵抗性になりやすい)といった体質です。特に、日本人を含むアジア人は、欧米人に比べて、インスリンを分泌する膵臓の能力がそれほど高くないと言われています。そのため、それほど太っていなくても、少しの生活習慣の乱れで、膵臓が疲弊し、糖尿病を発症しやすい傾向があるのです。両親や兄弟姉妹に糖尿病の人がいる場合、自分もその体質を受け継いでいる可能性が高いため、より一層の注意が必要となります。しかし、遺伝的要因は、あくまで「なりやすさ」であり、それだけで糖尿病が発症するわけではありません。その発症の引き金を引くのが、「環境的要因」、すなわち「生活習慣」です。こちらが、糖尿病になりやすい人となりにくい人を分ける、後天的な大きな違いとなります。代表的な環境的要因は、「食べ過ぎ(過食)」「運動不足」、そしてそれらがもたらす「肥満」です。特に、お腹周りに脂肪がつく内臓脂肪型肥満は、インスリンの働きを悪くする悪玉物質を分泌するため、糖尿病の強力なリスク因子となります。また、精神的な「ストレス」や、不規則な生活による「睡眠不足」も、自律神経やホルモンバランスを乱し、血糖値を上昇させる原因となります。さらに、喫煙や過度の飲酒も、インスリンの働きを妨げることが知られています。つまり、糖尿病になりやすい人とは、「遺伝的にインスリンの働きが弱い体質を持ち、かつ、不適切な生活習慣によって、その弱い部分に過剰な負担をかけ続けている人」と言えます。遺伝という土台は変えられませんが、その上に築く生活習慣という建物は、自分自身の努力で、いくらでも丈夫なものに変えていくことができるのです。
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かゆみと合併症、溶連菌の本当に怖いところ
溶連菌感染症は、適切な治療を受ければ、通常は数日から一週間程度で回復に向かう病気です。しかし、その治療において最も重要なことは、処方された抗生物質を、症状が良くなったからといって自己判断で中断せず、医師の指示通り、最後まで必ず飲みきることです。なぜなら、溶連菌感染症の本当に怖いところは、急性期の喉の痛みやかゆみといった症状そのものよりも、治療が不完全であった場合に引き起こされる、深刻な「合併症」にあるからです。溶連菌感染症の合併症は、大きく分けて二つあります。一つは、「化膿性合併症」です。これは、喉にいる溶連菌が、周囲の組織に広がって、新たな細菌感染症を引き起こすものです。例えば、炎症が耳に及べば「中耳炎」、鼻に及べば「副鼻腔炎(蓄膿症)」、首のリンパ節に及べば「頸部リンパ節炎」となります。また、扁桃腺の周囲に膿が溜まってしまう「扁桃周囲膿瘍」は、激しい痛みと開口障害を伴う、緊急性の高い状態です。これらは、抗生物質による治療が不十分な場合に起こりやすくなります。そして、より深刻で、最も警戒しなければならないのが、「非化膿性合併症」です。これは、溶連菌に対する体の免疫反応が、誤って自分自身の体の組織を攻撃してしまう、自己免疫疾患のような病態です。代表的なものに、「リウマチ熱」と「急性糸球体腎炎」があります。リウマチ熱は、発症から2~3週間後に、発熱や関節の痛み、そして最も重篤な症状として、心臓の弁に炎症が起こる「心炎」を引き起こします。この心炎は、将来的に心臓弁膜症という後遺症を残す可能性があり、非常に危険です。一方、急性糸球体腎炎は、発症から3~4週間後に、血尿やタンパク尿、体のむくみ(浮腫)、高血圧といった、腎臓の機能低下のサインが現れる病気です。ほとんどの場合は自然に回復しますが、一部では腎不全が進行することもあります。これらの恐ろしい合併症は、現在では、抗生物質による治療が普及したことで、その発生頻度は激減しました。しかし、それは裏を返せば、抗生物質をきちんと最後まで飲みきることが、いかに重要であるかを示しています。目先の症状が和らいだからと油断せず、体内に潜む溶連菌を完全に根絶やしにすること。それこそが、将来にわたる子どもの健康を守るための、親の最も大切な責任なのです。
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その首の痛み寝違えではないかも
朝起きた時の首の痛み。ほとんどの場合は、筋肉の炎症による、いわゆる「寝違え」です。しかし、ごく稀に、その痛みの背後に、単なる寝違えでは済まされない、危険な病気が隠れていることがあります。いつもと違う、あるいは特定の症状を伴う場合は、「たかが寝違え」と自己判断で放置せず、速やかに医療機関を受診する必要があります。見逃してはならない、危険なサインをいくつか知っておきましょう。まず、最も注意すべきなのが、「手足のしびれ、麻痺、力が入らない」といった症状を伴う場合です。首の痛みと共に、腕や指先にしびれが広がったり、お箸が持ちにくい、文字が書きにくいといった、細かい作業が困難になったりした場合は、「頸椎椎間板ヘルニア」や「頸椎症性神経根症」の可能性があります。これは、首の骨の間にある椎間板が飛び出して神経を圧迫したり、加齢によって変形した骨が神経を刺激したりする病気です。さらに、両手足がしびれる、歩きにくい、階段の上り下りが怖いといった症状は、脊髄そのものが圧迫されている可能性があり、緊急性の高い状態です。次に、「激しい頭痛、吐き気、嘔吐」を伴う場合も危険です。特に、後頭部を殴られたような、今までに経験したことのない激しい頭痛は、「くも膜下出血」のサインかもしれません。また、発熱を伴う場合は、「髄膜炎」などの感染症も疑われます。これらの病気は、命に関わるため、一刻も早く脳神経外科のある救急病院へ行く必要があります。「ろれつが回らない」「物が二重に見える」といった症状も、脳梗塞などの脳血管障害を強く示唆する危険なサインです。また、痛みが首だけでなく、胸や背中にまで広がる場合、心筋梗塞などの心臓の病気が、首の痛みとして感じられている可能性(放散痛)も考えられます。これらのサインに一つでも当てはまる場合は、もはや「寝違え」の範疇ではありません。様子を見るという選択肢はなく、直ちに専門医の診察を受けることが、あなたの健康と未来を守るために、何よりも重要なのです。