重要な会議の前や、試験の前に、決まってお腹がキリキリと痛くなったり、下痢に襲われたりする。特に検査をしても、胃や腸に異常は見つからない。このような経験を持つ人は、決して少なくないでしょう。これは、「過敏性腸症候群(IBS)」の典型的な症状であり、ストレスと腹痛の間に、いかに深く、そして密接な関係があるかを示しています。私たちの脳と腸は、「脳腸相関」という言葉で表されるように、自律神経やホルモンなどを介して、常にお互いに情報をやり取りし、影響を与え合っています。脳が、プレッシャーや不安といった「ストレス」を感じると、その信号は自律神経を介して、瞬時に腸に伝わります。自律神経のうち、ストレス下で優位になる「交感神経」が活発になると、腸の動き(蠕動運動)が異常に激しくなったり、逆に動きが鈍くなったりします。また、腸の知覚が過敏になり、通常では感じないような、わずかな刺激(腸内のガスの動きなど)に対しても、強い痛みとして感じてしまうようになります。これが、ストレスによって腹痛や、下痢、便秘が引き起こされるメカニズムです。過敏性腸症候群は、大きく分けて、下痢を繰り返す「下痢型」、便秘に悩まされる「便秘型」、そして下痢と便秘を交互に繰り返す「混合型」があります。特に、通勤電車の中や、会議中など、すぐにトイレに行けない状況で症状が悪化しやすく、「またお腹が痛くなったらどうしよう」という予期不安が、さらなるストレスとなって、症状を悪化させるという、悪循環に陥りがちです。このつらい症状と付き合っていくためには、まず、消化器内科などを受診し、炎症性腸疾患やがんといった、他の病気が隠れていないことを確認してもらうことが大前提です。その上で、過敏性腸症候群と診断されたら、生活習慣の改善が治療の基本となります。規則正しい食事、十分な睡眠、適度な運動を心がけ、自律神経のバランスを整えることが重要です。食事では、暴飲暴食や、脂肪分の多い食事、香辛料、アルコール、カフェインといった、腸を刺激するものを避けるのが良いでしょう。そして、何よりも、自分なりのストレス解消法を見つけ、心と体の緊張を解きほぐす時間を持つことが大切です。ストレスをゼロにすることはできませんが、その受け止め方や、付き合い方を変えることで、お腹の症状は、きっと改善していくはずです。