喉の痛みや高熱といった症状で知られる溶連菌感染症ですが、その特徴的な症状の一つに、全身に広がる赤い発疹があります。そして、この発疹は、しばしば強い「かゆみ」を伴い、特に子どもにとっては非常につらい症状となります。なぜ、溶連菌に感染すると、このようなかゆい発疹が現れるのでしょうか。そのメカニズムは、溶連菌という細菌が作り出す「毒素」に深く関係しています。溶連菌、正式にはA群溶血性レンサ球菌という細菌は、感染すると様々な物質を産生しますが、その中に「発疹毒(ほっしんどく)」または「外毒素」と呼ばれる毒素があります。この毒素が、血液の流れに乗って全身に広がり、皮膚の毛細血管に作用することで、炎症反応を引き起こし、赤く細かい点状の発疹を出現させるのです。この発疹は、医学的には「猩紅熱(しょうこうねつ)様発疹」と呼ばれ、まるで日焼けした肌のように全体的に赤みを帯び、その中に砂をまいたような、ザラザラとした細かい赤い発疹が密集するのが特徴です。特に、首や胸、脇の下、足の付け根といった、皮膚がこすれやすい部分に強く現れる傾向があります。そして、この毒素による炎症反応が、皮膚の知覚神経を刺激することで、「かゆみ」が生じます。体は、毒素という異物に対して免疫反応を起こし、ヒスタミンなどの化学伝達物質を放出します。このヒスタミンが、かゆみを引き起こす主な原因物質です。つまり、溶連菌の発疹に伴うかゆみは、細菌の毒素に対する体のアレルギー反応、あるいは防御反応の一環と捉えることができるのです。かゆみの程度には個人差がありますが、特にアトピー性皮膚炎など、もともと皮膚のバリア機能が弱い子どもの場合、より強いかゆみを感じやすいと言われています。このつらいかゆみから、患部を掻き壊してしまうと、皮膚に傷がつき、そこから別の細菌が侵入して「とびひ(伝染性膿痂疹)」などの二次感染を引き起こすリスクもあります。溶連菌の発疹とかゆみは、単なる皮膚症状ではなく、体内で細菌との戦いが繰り広げられている証なのです。