本稿では、アデノウイルス感染後に症状が急速に悪化し、肺炎を併発して入院加療が必要となった七歳女児の症例に基づき、その臨床的な経過を詳細に報告します。患者は当初、発熱と咽頭痛を主訴に近医を受診し、アデノウイルス迅速検査にて陽性が確認されました。発症から四日目までは三十九度台の弛張熱が持続しましたが、五日目に解熱。しかし、解熱とほぼ同時に、それまで軽微であった咳が急激に悪化し、持続的な乾性咳嗽(乾いた咳)へと変化しました。六日目、患者は咳による呼吸困難感と、吸気時の胸痛を訴え、当院救急外来を受診しました。初診時の身体所見では、呼吸数一分間に三十六回、脈拍百二十回、経皮的酸素飽和度(SpO2)は九十二パーセントまで低下しており、肺の聴診では右下肺野に明らかな湿性ラ音が聴取されました。胸部レントゲンおよびCT検査の結果、右下葉に広範な浸潤影を認め、アデノウイルス随伴性肺炎と診断されました。血液検査ではCRP(炎症反応)が著明に上昇しており、白血球数の増加も認められたため、二次的な細菌感染の可能性も考慮し、強力な抗菌薬の点滴投与を開始。同時に、酸素投与とネブライザーを用いた気管支拡張剤の吸入を行いました。本症例の特筆すべき点は、ウイルスのピークが過ぎたと判断される解熱後に肺炎が顕在化した点です。これは、アデノウイルスが引き起こした「サイトカイン・ストーム」が、肺胞の毛細血管透過性を亢進させ、二次的に炎症を増幅させた結果と考えられます。入院後、適切な全身管理により咳は徐々に湿性(痰を伴う音)へと変わり、発症から十二日目には酸素投与を離脱。退院時には肺の影も大幅に改善しましたが、気道過敏性は残存しており、その後一ヶ月間は激しい運動を控えるよう生活指導が行われました。この症例が示唆するのは、アデノウイルスにおいては「熱が下がった」ことが必ずしも「治癒」を意味しないという厳しい現実です。むしろ、解熱後に咳が止まらない状態は、炎症の主戦場が上気道から肺へと移動したサインである可能性があり、特に学童期の子供においても重症化のリスクを常に念頭に置かなければなりません。医療従事者および保護者は、咳の質、頻度、そして呼吸の深さの変化に最大限の警戒を払うべきです。アデノウイルスというありふれたウイルスが持つ、牙を剥いた際の破壊力を再確認させる重要な臨床的事例と言えます。
合併症から肺炎を併発したアデノウイルス感染症の臨床経過報告