溶連菌感染症の急性期の症状、つまり高熱や喉の痛み、そしてかゆみを伴う赤い発疹がようやく治まり、ホッとしたのも束の間。発症から1~2週間ほど経った頃に、子どもの手や足の指先から、皮膚が日焼けの後のように、薄くポロポロとむけ始めることがあります。これを見た保護者は、「また別の皮膚の病気?」「薬の副作用?」と、新たな心配をしてしまうかもしれませんが、これは「落屑(らくせつ)」と呼ばれる、溶連菌感染症の回復期にみられる、非常に特徴的な症状の一つです。この現象は、病気がきちんと治癒に向かっている証拠であり、決して心配なものではありません。では、なぜこのような皮むけが起こるのでしょうか。その原因は、発疹を引き起こしたのと同じ、溶連菌が産生する「発疹毒(外毒素)」にあります。この毒素は、皮膚の表面にある角質層の細胞間の結合にダメージを与えます。急性期には、このダメージが炎症や発疹として現れますが、回復期に入り、炎症が治まってくると、ダメージを受けた古い角質層が、新しく再生された下の皮膚から剥がれ落ちてくるのです。これが、落屑の正体です。つまり、皮膚のターンオーバー(新陳代謝)の一環であり、いわば「皮膚の脱皮」のようなものと考えることができます。落屑は、特に発疹が強かった部分や、皮膚が厚い手足の指先、手のひら、足の裏などによく見られます。時には、手袋や靴下を脱ぐように、広範囲の皮がベロンとむけることもあり、その見た目に驚かされるかもしれません。しかし、この皮むけ自体には、かゆみや痛みを伴うことは、ほとんどありません。子ども自身も、特に気にしていない場合が多いでしょう。この時期のケアとして大切なのは、無理に皮を剥がそうとしないことです。自然に剥がれ落ちるのを待ちましょう。無理に剥がすと、まだ未熟な下の皮膚を傷つけてしまう可能性があります。また、皮がむけた後の新しい皮膚は、乾燥しやすくデリケートなため、保湿剤をこまめに塗って、優しく保護してあげることが大切です。この特徴的な落屑の存在は、数週間前にかかった発熱や発疹が、溶連菌感染症によるものであったことを、後から証明してくれる、診断の助けになることさえあるのです。