椎間板ヘルニアの治療は、保存療法が基本ですが、症状によっては、早期に、あるいは最終的な選択肢として「手術」が必要となる場合があります。手術に踏み切るべきかどうかは、患者さんの生活の質(QOL)や、将来的な体の機能を守る上で、非常に重要な判断となります。では、どのような場合に、手術が検討されるのでしょうか。手術が強く推奨される、あるいは必要となるケースには、いくつかの明確な基準があります。まず、最も緊急性が高いのが、「膀胱直腸障害」が現れた場合です。これは、ヘルニアが、排尿や排便をコントロールする神経(馬尾神経)を強く圧迫することで生じる症状で、「尿が出にくい、あるいは全く出ない(尿閉)」「頻尿になる」「便失禁を起こす」といった状態を指します。また、お尻の周りや股間の感覚が麻痺することもあります。これは、不可逆的な後遺症を残す危険性が非常に高い、緊急事態であり、診断され次第、可及的速やかに手術が行われます。次に、明らかな「運動麻痺の進行」が見られる場合です。例えば、「足首が上がらず、スリッパが脱げてしまう(下垂足)」「腕が上がらない」「指先に力が入らず、物が掴めない」といった、筋肉の力が明らかに低下している状態です。このような麻痺が進行している場合、神経へのダメージが深刻化している証拠であり、保存療法で様子を見ている間に、回復不能な状態に陥るリスクがあるため、手術が検討されます。そして、もう一つの大きな判断基準が、「保存療法で改善しない、耐え難い痛みやしびれ」が長期間続いている場合です。薬物療法やブロック注射、リハビリテーションといった、様々な保存療法を3ヶ月程度続けても、日常生活や仕事に大きな支障をきたすほどの、激しい痛みが全く改善しない。夜も眠れないほどの痛みで、精神的にも追い詰められている。このような場合には、生活の質を向上させることを目的に、患者さんの希望を踏まえた上で、手術が選択されます。手術は、決して怖いだけのものではありません。現代の手術は、内視鏡や顕微鏡を用いた、体への負担が少ない低侵襲な方法が主流となっています。手術という選択肢が、つらい痛みから解放され、より良い未来への扉を開くこともあるのです。
ヘルニアで手術が必要になるのはどんな時か