夏が近づき、保育園や幼稚園で「手足口病が流行り始めました」というお知らせを目にすると、多くの親御さんは我が子の健康を案じ、緊張した気持ちになることでしょう。そして、もし我が子が手足口病にかかってしまったら、高熱や痛々しい発疹に胸を痛めながら看病し、ようやく回復した時には心から安堵するはずです。その安堵感と共に、多くの人が抱くのが「一度かかったのだから、これで免疫がついてもう安心だ」という期待です。この考えは、果たして正しいのでしょうか。結論から言うと、「はい、免疫はつきます。しかし、それで完全に安心とは言えません」というのが正確な答えになります。この少し複雑な答えの背景には、手足口病という病気と、私たちの体の免疫システムの仕組みが関係しています。まず、私たちの体は、一度侵入してきた病原体を記憶し、次に同じ病原体が来た時に素早く攻撃して発症を防いだり、症状を軽くしたりする「免疫」という素晴らしい仕組みを持っています。手足口病も例外ではありません。一度、特定のウイルスが原因で手足口病にかかると、そのウイルスに対する抗体が体内で作られます。この抗体は、いわばそのウイルス専用の「指名手配書」のようなもので、次に同じウイルスが体内に侵入しようとした際に、免疫細胞がすぐに見つけ出して撃退してくれるのです。したがって、一度かかった手足口病の原因ウイルスと全く同じものに対しては、強い抵抗力を持つことになり、再び感染する可能性は非常に低くなります。この点においては、「免疫がつく」という認識は間違いではありません。では、なぜ「完全に安心とは言えない」のでしょうか。それは、手足口病を引き起こす原因ウイルスが、実は一種類ではないという事実に起因します。インフルエンザにA型やB型があり、さらにその中でも細かな型が毎年変化するように、手足口病の原因となるエンテロウイルス属のウイルスには、実に数十種類もの「顔ぶれ」が存在するのです。一度の感染で獲得できる免疫は、あくまでその時に感染した「特定の型」のウイルスに対するものだけ。残念ながら、他の型のウイルスに対する万能の免疫(交差免疫)はほとんど期待できません。
手足口病に一度かかればもう安心?免疫の基本