臨床の現場で成人の手足口病を診察する際我々医師が最も驚かされるのはその症状の激しさと全身に及ぶダメージの深さです。子供であれば数日で快復に向かうはずのこの疾患がなぜ大人が罹患すると四十度近い高熱や喉をガラスの破片で擦るような激痛を伴うのかその真相は成熟した大人の免疫システムが持つ「過剰反応」という側面に隠されています。子供の免疫系はまだ未熟で初めて出会うウイルスに対してゆっくりと段階的に応戦しますが大人の免疫系はすでに多くの病原体との戦いを知っており一度侵入を許すと最強の火力で敵を殲滅しようと試みます。この際に放出されるサイトカインという情報伝達物質が過剰になると炎症が自分自身の組織にまで及び激しい痛みや高熱として表出するのです。これは一種の免疫の暴走であり皮肉なことに免疫力が高いからこそ苦しみも大きくなるというパラドックスが生じています。また大人は日常生活でのストレスや慢性的な睡眠不足、あるいは仕事による疲労によって粘膜のバリア機能が低下していることが多くウイルスの侵入を容易にさせてしまうという脆弱性も併せ持っています。受診される多くの大人が「たかが夏風邪だと思っていた」と口にされますが手足口病のウイルスは中枢神経系や心筋にも影響を及ぼす可能性があり大人の場合はその重症化リスクが統計的にも無視できません。対処法としてはまず自分が感染している可能性を早期に認め徹底的な安静を選択することです。仕事への責任感から無理をして出社し体力を削ることは自らの免疫系にさらにストレスをかけ炎症を長期化させる自殺行為です。治療において特効薬はありませんが鎮痛解熱剤や適切な点滴による水分補給は免疫系が暴走せずにウイルスを処理できるよう環境を整える助けとなります。大人の手足口病は身体からの強制的なシャットダウン命令であると捉えてください。免疫という名の軍隊が最前線で激しい市街戦を繰り広げているとき最高司令官であるあなたにできる唯一の仕事は後方支援としての休養と栄養補給に専念することです。この過酷な一週間を乗り越えたときあなたの体には新しい免疫の記憶が刻まれますがその代償は小さくありません。自分を過信せず医学の力を賢く借りてこの荒波を乗り切ってください。
大人が重症化しやすい理由を専門医が免疫の観点から解説