おたふく風邪、医学的には流行性耳下腺炎と呼ばれるこの疾患は、多くの人にとって幼少期に経験する通過儀礼のようなイメージがありますが、実は免疫を持たない大人が感染した場合、子供のそれとは比較にならないほど重篤な経過を辿ることが少なくありません。原因となるムンプスウイルスは非常に感染力が強く、飛沫感染や接触感染によって容易に広がります。大人が発症した場合の典型的な初期症状は、耳の前から顎の下にかけての急激な腫れと痛みですが、これに先行して三十八度から三十九度を超える高熱、激しい頭痛、全身の倦怠感、食欲不振が現れることが一般的です。腫れは片側から始まり、数日以内にもう片側も腫れてくることが多いですが、唾液腺である耳下腺だけでなく、顎下腺や舌下腺まで及ぶと、顔の形が大きく変わるほどの浮腫が生じ、唾液を飲み込むことさえ困難な激痛に襲われます。大人の場合、この痛みと腫れが引くまでに一週間から十日間ほどを要し、その間は咀嚼ができないため、体力が著しく消耗します。しかし、本当の恐ろしさは症状そのものよりも、大人がかかった際に高い確率で発生する合併症にあります。男性において最も警戒すべきは精巣炎であり、発症者の約二割から三割に見られると言われています。精巣の激しい腫れと痛みを伴い、稀に無精子症や不妊の原因となるため、速やかな専門医の受診が不可欠です。女性の場合は、約七パーセントの確率で卵巣炎を併発することがあり、下腹部痛や不正出血が見られることがあります。さらに、男女を問わず深刻なのが髄膜炎や脳炎、そしてムンプス難聴です。特に難聴は、片側の聴力が突如として完全に失われることがあり、現代医学でも有効な治療法が確立されていない不可逆的な障害となるため、一生の生活の質を左右します。また、膵炎を引き起こして激しい腹痛や嘔吐に見舞われることもあります。大人の社会生活において、おたふく風邪による長期離脱は大きな痛手となりますが、合併症のリスクを考慮すれば、無理をして動くことは厳禁です。診断は特有の腫れに基づいた視診や血液検査で行われますが、特効薬となる抗ウイルス薬は存在しないため、鎮痛解熱剤を用いた対症療法が中心となります。予防については、子供の頃に罹患した記憶があっても、実は別の原因による耳下腺炎であった可能性や、抗体価が低下している可能性があるため、大人が今からでもワクチンを接種することの重要性が叫ばれています。自分自身の健康を守るだけでなく、周囲の妊婦や子供たちへの感染源にならないという社会的責任の観点からも、大人がおたふく風邪という疾患を正しく恐れ、万全の知識を持って向き合うことが求められています。
大人がおたふく風邪にかかった時の症状と合併症の真実