それは平穏な火曜日の朝のことでした。私は激しい喉の痛みと、これまで経験したことのないような耳の奥の違和感に襲われました。普段なら近所の耳鼻科に行くのですが、その日は「大きな病院に行けば一度に完璧に治してもらえるだろう」という、今思えば非常に安易で傲慢な考えが頭をもたげました。私は市内で最も有名な大学病院へと向かいました。入り口の巨大な自動ドアをくぐり、ホテルのような受付カウンターで初診であることを伝えた際、スタッフの方から静かに、しかし決定的な質問を投げかけられました。「紹介状はお持ちですか?」と。私は持っていないと答えましたが、その時、背後の壁に貼られた小さなポスターの文字が目に飛び込んできました。そこには「紹介状なしの初診:選定療養費七千七百円」と書かれていたのです。私の心臓は一瞬止まりかけました。診察代の他に、さらに八千円近くを支払わなければならないのかという現実に、冷や汗が止まりませんでした。しかし、すでに体調が悪く、一刻も早く診てもらいたい一心だった私は、その不条理な料金を受け入れるしかありませんでした。待合室での時間は、私の人生で最も長く感じられました。三時間以上待たされ、ようやく診察室に呼ばれた時には、体力の限界に達していました。医師の診察は非常に丁寧で、最新のファイバースコープを使って喉の奥を診てくれましたが、下された診断は「典型的な咽頭炎」であり、普通のクリニックで処方されるのと何ら変わらない抗生物質を手渡されました。そして会計の時間。渡された請求書には、合計で一万一千円を超える金額が記されていました。その内訳の大部分を占めていたのは、やはりあの選定療養費でした。もし私が朝、近所のクリニックに行っていれば、待ち時間は三十分程度で、支払額は三千円にも満たなかったはずです。私は自分の無知が生んだ経済的損失を、病院のロビーで呆然と見つめ続けました。この出来事は、私にとって大きな教訓となりました。病院が大きければ大きいほど、安心も大きいかもしれませんが、それには相応の「通行料」がかかるのだという冷徹な事実です。大病院は、重病の方や手術を控えた方のための聖域であり、私のような軽症の患者が安易に踏み込むべき場所ではないのだと、財布の軽くなった重みを噛み締めながら学びました。それ以来、私は自分の「かかりつけ医」を決め、どんな些細な不調でもまずはそこへ行くようにしています。そこで先生が「大きな病院で診てもらいましょう」と言ってくれた時だけ、紹介状という魔法のチケットを携えて大病院へ向かう。これが、日本の医療システムと共生し、自分自身の生活を守るための最も誠実な立ち振る舞いなのだと、今は確信しています。