あれは記録的な猛暑が続いていた八月の中旬のことでした。仕事の外回りで一時間ほど炎天下を歩き回った後涼しいオフィスに戻り冷たい麦茶を一気に飲み干したその瞬間でした。突然視界がぐらりと歪み胃の底からせり上がってくるような猛烈な吐き気に襲われたのです。最初は単なる疲れだと思いデスクで横になっていましたが冷や汗が止まらず心臓の鼓動が耳元で鳴り響くような感覚に陥り私は自分がただ事ではない状態にあることを悟りました。これがいわゆる熱中症の初期症状である吐き気だったのです。周囲の同僚がすぐに気づいてくれ保冷剤で私の首筋や脇の下を冷やしながら経口補給水を少しずつ飲ませてくれました。その時ほど「水」というものが喉を通るのが苦しく感じられたことはありません。吐き気のせいで一口飲むのもやっとの状態でしたが看護師の資格を持つ同僚から「一気に飲んではいけない、粘膜を湿らせるだけでいい」と諭され時間をかけて水分と塩分を取り続けました。三十分ほどしてようやく胃の不快感が和らぎ始めたとき私は自分の体力を過信していたことを激しく後悔しました。その晩は帰宅後も微熱が続き食事は一切受け付けずゼリー飲料を一口飲むのが精一杯の夜を過ごしました。翌朝になっても身体の奥底に重い鉛が詰まっているような倦怠感が残り完全に体調が元通りになるまでには丸三日を要しました。この体験を通じて学んだのは夏の吐き気は「休憩しろ」という身体からの最終警告であるということです。熱中症は意識を失う前段階で必ず胃腸の異変として現れます。それ以来私は外出時には必ず日傘を使用し喉が渇く前に常温の水分を摂ることを習慣にしました。また少しでも胃に違和感があれば無理をせず涼しい場所で目を閉じて深呼吸を行うようにしています。あの時の逃げ場のない吐き気の恐怖を二度と味わいたくないという思いが今の私の徹底した自己管理の原動力となっています。皆さんも夏の暑さを甘く見ず自分の身体が発する微細な不調に耳を傾けてください。
猛暑日に突然襲った吐き気の恐怖と回復の記録