本稿では、三十五歳の健康な男性がA群溶連菌に罹患し、小児とは比較にならないほど激しい全身症状と広範な「溶連菌発疹」を呈した臨床事例について報告します。この患者は、当初「喉のイガイガ感」と「倦怠感」を自覚していましたが、仕事の多忙を理由に市販の風邪薬で経過を見ていました。しかし、発症から三十六時間後、突如として四十度近い高熱と、唾液を飲み込むことさえ困難なほどの激痛が喉を襲いました。特筆すべきは皮膚症状の変化で、熱の上昇とほぼ同時に、頸部から胸部にかけて、まるで熱湯を浴びたような鮮紅色の紅斑が出現し、わずか数時間で腹部、背部、そして四肢の末端にまで波及しました。初診時の身体所見では、全身の皮膚が著明に充血し、指先で圧迫すると一時的に白くなる(圧迫褪色)反応が認められました。皮膚表面は極めて粗造で、典型的な溶連菌発疹に認められる「サンドペーパー様」の質感を呈しており、特に腋窩と肘窩においては、点状出血が線状に重なるパスティア線が明瞭に観察されました。口腔内においては、扁桃が高度に腫大し、偽膜様の白苔が広範囲に付着。舌は初期の白苺舌から、乳頭が隆起して鮮紅色の赤苺舌へと急速に変化していました。迅速検査にて溶連菌陽性が確認され、直ちにアモキシシリンの内服を開始しましたが、成人の場合は毒素に対する反応が強く、全身の浮腫(むくみ)や激しい皮膚の痒みを伴うことが本症例の困難な点でした。治療開始後、解熱までに三日間を要し、皮膚の赤みは消退し始めたものの、炎症の影響で全身の皮膚が極度に乾燥し、一週間後には臨床的に稀なほどの広範囲な「膜様落屑」が認められました。顔面の皮が剥け、手のひらの皮が手袋を脱ぐように大きく剥がれる様子は、患者にとって精神的な苦痛も大きなものでした。また、この症例では回復期に一過性の蛋白尿が認められ、溶連菌感染後の急性糸球体腎炎の合併が懸念されましたが、厳重な安静と水分管理により幸いにも自然軽快しました。この事例が示唆するのは、溶連菌発疹は大人の場合、単なる皮膚の紅潮に留まらず、全身の血管炎に近い激しい反応を伴うリスクがあるという点です。小児の病気という先入観が受診を遅らせ、その結果として毒素が全身に回って重症化を招く典型的なパターンと言えます。大人の喉の痛みと全身のザラザラした発疹は、一刻を争う細菌感染のサインであり、早期の抗生剤投与がその後の社会復帰の速さと、合併症の回避を決定づけるのです。